第4回 障害福祉サービス事業の基礎のキソ④(事業所物件選び)

開業にあたって最初に悩むところは事業所としての物件選びではないでしょうか。
障害福祉サービス事業は、利用者が安心・安全で、プライバシーや個人情報が守られる環境を作ってお迎えできるように必要な規制を設けています。注意するのは主に、都市計画法、建築基準法、消防法です。「開業できるかどうか」「開業にあたってコストや時間がどれだけかかるか」に直結します。
1 都市計画法
まず確認していただきたいことは、物件が「市街化区域」であるかどうかです。
(区域区分)
第七条 都市計画区域について無秩序な市街化を防止し、計画的な市街化を図るため必要があるときは、都市計画に、市街化区域と市街化調整区域との区分(以下「区域区分」という。)を定めることができる。ただし、次に掲げる都市計画区域については、区域区分を定めるものとする。3 市街化調整区域は、市街化を抑制すべき区域とする。
引用:都市計画法|e-Gov法
都市計画法にあるように、市街化調整区域は市街化を抑制すべき区域、つまり建物は原則として建てられない区域です。反対に、市街化区域は、すでに市街地を形成している区域及びおおむね十年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域、つまり道路や下水道を整備してどんどん住みよくしていく区域になります。
もし、市街化調整区域に建物が次々と建ってしまったら、そこにインフラをととのえる必要が出てきて、それは税でまかなわれることになります。行政はインフラを効率的で効果的に整備していきたいと思っているので、市街化を進めるべきところとそうではないところとを区別しています。
そのため、市街化調整区域では原則的には事業所は開設できません。ただし、障害福祉サービス事業を目的として建築する物件は、市街化調整区域内で建築できる種類の建築物を定めた例外的な規定に該当しますので、行政の担当部署と協議を重ね、その要件をクリアできれば、開発許可を受けることで建築することが可能になります。
もっとも、開発許可を得る場合、事業所の開設までに相当時間がかかりコストもかさむため、比較的小資本で開始できることが障害福祉サービス事業のメリットと考えると、積極的に市街化調整区域での物件を選ぶケースは少ないでしょう。
2 建築基準法
用途区分は、生活介護、自立訓練、就労移行支援、就労継続支援は「児童福祉施設等」、共同生活援助は「寄宿舎」か「共同住宅」として、それぞれ特殊建築物に該当します。規模と用途によって、耐火建築物や準耐火建築物にする必要があるなど、構造、防火、避難などの点からさまざまな制限があります。
第二条 この法律において次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
二 特殊建築物 学校(専修学校及び各種学校を含む。以下同様とする。)、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、市場、ダンスホール、遊技場、公衆浴場、旅館、共同住宅、寄宿舎、下宿、工場、倉庫、自動車車庫、危険物の貯蔵場、と畜場、火葬場、汚物処理場その他これらに類する用途に供する建築物をいう。
そして、既存の建物などを利用する場合において、変更部分の床面積の合計が200㎡を超える場合は原則用途変更の申請が必要になります。建物の用途は、登記や確認済証などに記載はありますが、建物の所在地の役所や土木事務所の確認申請を担当している部署に行って確認するとよいでしょう。
また、自治体によっては、用途変更が不要な場合でも建築基準法に適合していない物件を事業所として使用することを認めず、適合状況を報告させる場合があります。
3 消防法
生活介護、短期入所、自立訓練、就労移行支援、就労継続支援、共同生活援助、児童発達支援又は放課後等デイサービスで使用する事業所は消防法上の特定防火対象物に該当することとなります。
「特定防火対象物」ってなに?となりますよね。
第十七条の二の五
② 前項の規定は、消防用設備等で次の各号のいずれかに該当するものについては、適用しない。
一 第十七条第一項の消防用設備等の技術上の基準に関する政令若しくはこれに基づく命令又は同条第二項の規定に基づく条例を改正する法令による改正(当該政令若しくは命令又は条例を廃止すると同時に新たにこれに相当する政令若しくは命令又は条例を制定することを含む。)後の当該政令若しくは命令又は条例の規定の適用の際、当該規定に相当する従前の規定に適合していないことにより同条第一項の規定に違反している同条同項の防火対象物における消防用設備等
二 工事の着手が第十七条第一項の消防用設備等の技術上の基準に関する政令若しくはこれに基づく命令又は同条第二項の規定に基づく条例の規定の施行又は適用の後である政令で定める増築、改築又は大規模の修繕若しくは模様替えに係る同条第一項の防火対象物における消防用設備等
三 第十七条第一項の消防用設備等の技術上の基準に関する政令若しくはこれに基づく命令又は同条第二項の規定に基づく条例の規定に適合するに至つた同条第一項の防火対象物における消防用設備等
四 前三号に掲げるもののほか、第十七条第一項の消防用設備等の技術上の基準に関する政令若しくはこれに基づく命令又は同条第二項の規定に基づく条例の規定の施行又は適用の際、現に存する百貨店、旅館、病院、地下街、複合用途防火対象物(政令で定めるものに限る。)その他同条第一項の防火対象物で多数の者が出入するものとして政令で定めるもの(以下「特定防火対象物」という。)における消防用設備等又は現に新築、増築、改築、移転、修繕若しくは模様替えの工事中の特定防火対象物に係る消防用設備等引用:消防法|e-Gov法
不特定多数の人たちの出入りが想定されるような建物は、被災リスクが高いので、それを特定防火対象物として指定し、消防設備の設置基準や点検・報告義務の規制は厳しくなります。
なお、共同生活援助と短期入所はのような入居がある施設は、床面積に関係なく、自動火災報知設備が必須となります。また他の通所サービスで利用者の8割が障害区分4以上である場合は一層の安全性が求められますのでやはり自動火災報知設備が必要となります。物件選びの際は、始めるサービスの種類に応じて消防法上求められる規制を念頭においておき、管轄の消防署に相談しましょう。
4 まとめ
・市街化調整区域にないか確認する。
・事業に使用する面積が200㎡未満か確認する。
・開始するサービスに応じた必要な消防設備はなにか、いくらかかるか、工期はどのくらいかを確認する。