第4回 刑務所に就職した日

刑務所に就職した日

 刑務官になるには、刑務官採用試験に合格する必要があります。
 そして、合格後は採用予定者として名簿に載るので、採用を検討している刑務所に連絡して(むこうから連絡がくる場合もあり)、見学をさせてもらいます。
 見学しなくても採用の打診はありますが、必ず見学した方がいいです。刑務官は職務内容や職場環境がかなり特殊です。職場では、意識的にも無意識にも常に緊張感にさらされることになるので、プレッシャーに対する自身の耐性を真剣に見極めた方が後悔は少ないと思います。

 私は当時まだ前職に勤務中でしたので、年休を使って施設見学に行きました。そのとき対応してくれた主任から、「ここで3年勤務すれば刑務官としての基礎が間違いなくできる」言われて決めました。
 拝命(採用)してから知ったことですが、この主任は管区内では知らない人はいないくらいすごい人だったようで、厳しく指導を受けることも多々ありましたが、かわいがってくれ、配置をあれこれ工夫いただき、言葉どおり刑務官としてたしかな基礎を築くことができたのでとても感謝しています。


 就職する前と後で劇的に変わった認識としては、刑務所は、人の「生活の場」であると知ったことです。
 刑務所での生活は基本的にすべて監視付きとなるのですが、食事があり、仕事(作業)があり、寝る場所があり、わずかながら娯楽の時間もあります。
 そんな生活の場を円滑にすることが仕事の一部となるのですが、就職したては右も左もわかりません。むしろ、受刑者の方が拝命したての新人よりもはるかに刑務所について知っています。
 まずは彼らの動きをよく見て刑務所の流れを把握していきます。
 同時に、施設の規則についても頭に叩き込みます。
 受刑者の生活はすべて規定されており、守るべき規則が数多くあります。「生活のしおり」などの名称で冊子となっているものですが、指示・指導する側の刑務官としては、内容を当然正しく知っておかなければなりません。 
 そのほかにも仕事の処理ルールとしての規則もあり、常に「根拠」「根拠」と耳にタコができるくらい先輩方から指導を受けます。
 こういったことを繰り返して知識と経験を身に付けていきます。どんな仕事もそうですが、最初の一年は思い通りになることの方が少なく、とても苦しかったです。他人に指示や指導をする経験を持っている人はアドバンテージがあったように思いましたね。
 三年目の先輩ぐらいを見ていると何でも対応できそうなオーラがあり、今は苦しくても来年、再来年にはきっとああなれるから大丈夫と自分に言い聞かせていました。結局それは錯覚で、三年経った後も成長しない自分に落ち込むことになるのですが、それはまた別の話。

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